部屋にいた変な生き物
大分前の話だが、私の家の畳の部屋に、なんだか得体の知れないものが発生した。
大きさは1.5cmくらいか。
銀色で、なんだかぴちぴちと動くもの。
見た感じ、シラスを銀色にしたようなもの。
あまりに活きがよくぴちぴち動くその物体を見て、戦慄のため動けなくなった私を傍目に、そいつは畳と畳の間にぴちぴち消えていった。
その後も私は、しばらく動くことができなかった。
なんでここに魚がいるのだろう。
どう見たってあれは魚だ。
銀色で、動きなんか浜に打ち上げられた魚そっくりだ。
世界のニュースで、ときたま海から何千キロも離れた街中で魚が大量に降ってくるなんてことがある。
原因はいまだ不明。
風なのか、竜巻に巻き込まれてきたのか、大量の鳥がくわえた魚を落としたのか。
とにかく分からないが、不思議なことに魚が突然大量に発生するのだ。
そんな話が、その時の私の頭の中を駆け巡った。
ごくごく小規模だけれども、突然私の部屋でその怪現象が起こったのだろうか。
なにかの前触れなんだろうか。
日頃の行いがよくないのだろうか。
それにしても、今畳の中にあいつが消えたということは、畳を上げたらあんなのがうじゃうじゃいるのだろうか。
なんて色々なことを考えてますます血の気が引いた。
同時に、さっき見たことが幻だったのではないだろうか、と疑いを抱いた。
だって魚が部屋にいるわけないのだ。
そんなこんなで、訳も分からない消化不良のまま、それからずっとその銀色の生き物を見かけることはなかった。
日が経つにつれ、あの日見たものをもう一度しっかり正確に見てみたくなって、何度も何度も畳のヘリに目をこらした。
それでも、一度も現れなかった。
人間というのは都合よく出来ていて、ずっと待っている事象が起こらないと、それ自体を忘れてしまうのだ。
私もそれからずっと、その銀の生き物のことを忘れていた。
そうしたある日、飼い犬のお腹にダニがついていたのを見て、図鑑で何ダニか調べたときのこと。
ちょうどそのページに、ノミやシラミなんかも載っていた。
こんなものが毛の中にいたら嫌だな、と思いながらそのページを見回していたら、「シミ」というのがいた。
名前だけは聞いたことがあった。
そう言えば、シミってどんなのだろうか。
と思って写真を見たら、あの日の銀の生き物と全く同じ姿の生き物が載っていた。
その時の気分が分かるだろうか。
もうすっかり、あれが魚だと決め付けていた私は、超自然現象であることを期待していた。
それなのに、あれが「シミ」なんているれっきとした虫だったなんて…。
「シミ類は(中略)家の中でよく見かけられているおなじみの存在である。」